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ごくごく平凡な高校生の主人公が、深澤暁と出会う。
彼の風貌は日本人離れし、美しいとは言えないものだが、フィンランド人の映画俳優アキ・マケライネンと瓜二つだ。
デザイナーの父親の影響でマイナー映画にも詳しい主人公は暁に話しかける。
「君はアキ・マケライネンだ」
暁はシングルマザーの母親からネグレクトされてきた。
その容姿が原因でいじめにあってきた。
そんなことから、吃音ももっていた。
しかし主人公の一言で人生は開けていく。
自分ではない誰かになり、そこに心の平穏を求めていくのだ。
それはいつしか魔法や憧れを超え、人生となっていく。
アキは劇団員となり、理不尽と対峙していく。
一方主人公も。高校在学中に生活が一変する。
父親が借金を残して自死する。
そこから始まる人生の理不尽。
お金がないということは、健康な心と体を蝕む。
だけど若いうちはいい。夢を盾に抗えるから。
しかし。
人の役に立ちたい思いでマスコミ関係に入社。
しかしそこからさらに人生は無情を突きつけてくる。
パワハラセクハラ、あらゆるハラスメントに耐えた結果、得たものはぼろぼろの心と体、貧困。
そんなストーリーになぞって出てくる人物があらゆる闇の象徴として描かれ、希望が何一つ見えない。
ただただ苦しくて、しかし、引き込まれて小説を読んでいることを忘れる不思議な一冊だった。
すごい、小説だった。
最後、少しだけ「夜が明ける」。
負けていいんだ。
勝ち負けじゃないんだ。
でも現実は綺麗事じゃないんだ。
こんな世の中だ、明日は我が身。
人に勧めたくなる一冊でした。